以下の記事は、『山と渓谷 2000年1月号 bV74』に掲載されたものです。参考にして頂ければ幸いです。
低体温症とは・・・
寒気が厳しいときに、意識的に体温の低下を防ぐ手段を講じないと、人の体温は低下し体にさまざまな病的状態をひきおこす。これが低体温症である。
体温は、どのようにして低下するのだろうか?熱は対流・伝導・蒸発・放射の4つの方法で人から失われる。
対流による熱の喪失は、体温より低い温度の空気や水が次々に入れかわって皮膚に接触する際に起こる。寒い野外で風が吹いていると、熱は主として対流によって失われる。その量は風速の二乗に比例する。つまり風速3mの風が6m、9mへと2倍、3倍になると熱の失われる量はそれぞれ4倍、9倍へと急速に増加する。この現象は「風冷え」と呼ばれている。
伝導は、体と直接接触している物質に熱エネルギーが移る現象をさしている。空気は伝導によって熱を伝えにくいが、水は伝導率が高い。地面も比熱の高い伝導体なので、雪の上や地面の上に横になると、熱は体から大量に失われる。
蒸発は、水が蒸気になる現象だが、その際に気化熱を奪う。人体では汗をかくことによって熱が失われる。濡れた衣服を着ていると、蒸発と伝導によって大量の熱が失われる。
放射は、熱を直接放出したり吸収する現象で、人体は自分より温度の低い近くの固体の物質に常に熱を放射している。太陽や火の熱は放射エネルギーによって人を暖める。
寒気にさらされると体温が低下する前に、手や足の皮膚の温度が低下して知覚神経の感覚がにぶくなり、しびれた感じがしたり、口の周りの筋肉がこわばって、ろれつがまわらなくなる。
低体温症におちいりはじめると、まず歯の根があわなくなり、寒いと感じふるえることが多い。ふるえは自分の意志とは無関係な筋肉の痙攣によって体が必死に熱をつくりだし、低下した体温を元に戻そうとしていることを意味し、低体温症への警告のサインとして重要である。
その他の症状としては、靴ひもをしめたり、ライターの火をつける、服のファスナーを閉めるといった手の細かい作業ができなくなったり、あたかも子供がぐずっているような、普段の行動からは考えられない態度をとるようになる。
さらに体温が低下すると、なんでもないところでつまずいたり、よろめいたりし始める。体温が摂氏32度以下に低下した重症の低体温症では、ふるえが止まり、歩くどころか立っていることも難しくなる。精神活動に変調をきたし、寒さから身を守ることにまったく無関心になり、手袋をつけなかったり、上着のファスナーを閉め忘れてしまう。この様な状態から、さらに意識のレベルが低下し、もうろう状態から昏睡状態におちいる。
低体温症は予防が大切である。寒気のなかで防寒が不十分だと、人は短時間のうちに低体温症になるが、野外で、いんたん低下した体温を元に戻すのはきわめて難しい。
ウェアリング :
蒸発と伝導による熱の喪失を防ぐには、水分をため込んでしまう衣服を着ないことがまず大切である。綿素材は、汗や雨などで外からしみこんできた水分をそのまま吸収してすっかり濡れてしまうので、登山の際の衣服としてはきわめて不適である。その点、ウールは水を吸い込みにくく、繊維の間に動かない空気の孔が無数にあるので、蒸発と伝導によって熱が失われにくく断熱効果が高い。
食料 :
低体温症を予防するには、体が熱を作り出すもとになる充分な食事を取ることも大切である。そのためには炭水化物を中心とした充分な食料を持って行かなくてはならない。
その他の装備 :
ウレタンマットは、休息するとき、この上に座ることによって、伝導により熱が直接地面や雪へと失われるのを防ぐことができる。ツエルトは、風をかなり避けることができ、対流による熱の喪失を減らすことができる。エマージェンシーマットは、重量が100g足らず、コンパクトで手のひらに入る大きさで熱の放射を80%遮断できる。
軽症の場合:
予備の衣服があれば、濡れた衣服と着替えて、ただちに下山を開始しなければならない。近くに山小屋があればそこへ非難すればよい。冬山では、下山は必ずしも容易ではないので、稜線より下がって雪洞を掘ることである。風を避けることができ、食料と燃料が充分あれば寒気をしのげ、体温は上昇してくる。
重症の場合:
立つこともできず、意識がもうろうとしている重症の低体温症の場合には、稜線から下がって風を避け、テントやツエルトがあれば張って、急ごしらえのシェルターをもうける必要がある。もっとも近い山小屋はどこにあるのかを冷静に考えて、元気なものが助けを求めに行かなくてはならない。
重症の低体温症の患者の心臓は、体温の低下が進むなかで脈がだんだん遅くなり、最終的に停止するが、助け出してから治療をするなかで、乱暴に扱うと、突然、心室細動(心筋が同調性を失って、ばらばらに収縮し、心臓から血液が体に送り出されない状態)を起こして死亡してしまう。毛布などを何枚もそっと上からかけて、きわめて慎重に運び、けして背中に背負って運んではならない。
また、室内やテント内に運び込んだあと、間違っても、衣服を脱がして全身をマッサージするなどの手荒なことをしてはいけない。また、病院以外では急速に加温してはならない。しかし、意識がまったくなく、一見死亡していると判断してはならない。ゆっくり加温して体温を上げることができれば助かる可能性が充分あるからである。
皆さん、くれぐれも気をつけて山登りを楽しんで下さいね (*^_^*) 。
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